選りにも選って
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


七夕だけ雨催いになったという、
何ですかそりゃな幕開けとなった七月も、
気がつけばカレンダーの3段目、
中盤目指して駆け降りている消化っぷりで。

 「今年は残念ながら、
  インターハイへのお呼びは無しなんですよね。」

昨年度は、まだ新人でありながら
個人の部であちこちの全国大会へ出場しての大活躍を見せたほどに。
女子剣道の世界で“その人有り”との呼び声も高い、
草野さんチの七郎次お嬢様ではあったれど。
今年度はなかなかにお強い俊英が、
あちこちの学校からめきめきと頭角を現しておいでだとかで。
最もメジャーな全国大会での東京都代表の座は見事勝ち取ったものの、
それとは枠の異なる“高校総体”での都の代表という座は、
選考も兼ねていた選手権大会の決勝戦にて僅差で敗れ、
惜しいかな別のお人に奪われてしまったそうな。

 「あれでしょう。
  年功序列ってのがあって、昨年は一年生だったので、
  実力はあったけど代表選手になれなかった顔触れが、
  今年いよいよ どどんと出て来たとか。」

それでなくたって、
同い年にシチさんみたいにお強い人がいる世代ですもの。
既に中等部時代から培われてた“負けるもんか”っていう気勢もお強い、
あちこちの地域や学校の鬼百合さんたちが。
やっと表舞台に立てるってんで、
張り切ってるこの年なんじゃありませんか?と。
半ば他人事のような言い方をする、ひなげしさんこと平八だったのへ、

 「ヘイさん、
  その鬼百合ってのはもしかして、
  アタシみたいな、
  しかも“おっかない”って揶揄なんでしょうか。」

 「いやん、エミたん失言vv」

 「???(エミたん?)」

白々しくもウインクつきにて肩をすくめて、
愛らしく“てへvv”なんて微笑って誤魔化そうとする平八だったのへ。
こらっと白百合さんが手を挙げるより前に、
誰だそれはと紅色の双眸をぱちくりと見張ってしまい、
真剣にきょとんとした紅ばらさんだったのが、
何とも可愛い可笑しとウケてしまってのこと。
あははvvと笑い崩れてしまった三人娘だったのもまた、いつものことで。
さすがにご本人は“もうもうもう”と拗ねかかったものの、
お膝に乗っけていたメインクーンさんが、

 「にゃう?」

ライオンのようなふさふさの毛並みを揺らし、
小首を傾げて見上げて来たものだから。
間合いのよさについつい久蔵殿まで吹き出してしまい、

 「くうちゃんも笑っていいのよ?」
 「そうそう。」

蛍光色の猫じゃらしを振り振り、
七郎次や平八がそんな茶々を入れている。
夏休みまでを秒読み段階に控えた、試験休み中のお嬢様たち。
今日は大人しくも三木さんのお宅で集まって、
夏の予定なぞ突き合わせている真っ最中。
高校総体へ出る必要がなくなった七郎次だとあって、

 「それじゃあ八月の頭とか空いてるんですよね。」
 「ええ。合宿の予定も今年は取りやめになりましたし。」

何たって今年もまた凄まじい猛暑が危ぶまれているその上に、
全国的に節電が叫ばれてもいる夏なので。
妙齢のお嬢さんたちを一か所に集めての、
武道の指導と習練という合宿を、
危なげなくこなせるかという点への不安材料は山積みであり。
そこへ加えて 七月頭に、
体育祭や学校行事の最中、
熱中症で女子高生たちが倒れたというニュースが、
あちこちで数件ほど飛び交ったりもしたがため。
涼しい高地や静かな環境でという集中合宿だとはいえ、
結果として冷房効かせている中での練習になってしまいそうな気配。
なのなら、何も遠出をする必要もなかろうし、

 「節電とか節水を考えた場合、
  個々人で各々消費するより団体で一遍に行動した方が…とはよく聞きますが、
  何十人ものお嬢さんがたを集めての団体行動ともなると、
  逆にあれこれがどんぶり勘定になって、
  電気でも水でも多く使う結果になっちゃうんじゃありませんかね?」

そういった見解から、節電対策といえるかどうかは微妙だということで、
随分とはやばや、本年度の夏の間の合宿は、
剣道部に限った話じゃあなく、
ほとんどが取りやめになっている女学園だったりするのだそうで。

 「秋の国体に出る部はどうするんでしょうか。」
 「?」
 「さあ、どうなるんでしょうねぇ。」


  確かソフトテニスとか、代表に選ばれてらしたけれど。

  海外へご旅行に出られる顔触れならば、
  そのままそちらで練習なさるのかもですわね。

  そうそう、
  環境的にはその方が打ち込みやすいかもですね。

  ……ウィンブルドン(の最中だのにか)?

  「…………あ。」×2


などというお呑気な会話を、
ころころという屈託のない微笑い声も挟んで楽しみつつ。
当家のお嬢様が用意した、
カシスを使った甘酸いムースケーキや、
クラッシュアイスへ薫り高いアイスティーをそそいだ、
品のあるグラスがきらちかと涼しげな存在感を放つ、
小じゃれたローテーブルを取り囲む格好で、午後のお茶を楽しんでおいで。
オレンジほどにも小さな肩には、ささやかな大きさのボレロを羽織り、
その下には…鎖骨丸出しのサンドレス風のワンピースをまとっていたり。
こちらもすんなりとした首条の儚げな線
(ライン)
少女らしい色香を滲ませるかのように覗かせて。
胸元まで開いたタンクトップに、
ちょっとルーズなオーバーブラウスを重ねた短パン姿という、
いかにも夏っぽい涼しげな恰好の約二名はともかくとして。
濃色の地への白という拮抗くっきりした取り合わせにて、
白く抜かれたヤシの葉が
ランダムに重なってるなんていう大胆なプリント柄のチュニックを、
ミニワンピのように丈を調整し、
くしゅくしゅっと低い目のウエスト辺りでフリンジさせ。
自慢の美脚はそのまま、シークレットパンツからほぼ露出という、
どこの妖精さんですかというよな大胆ないで立ちをしているのが、

 「…ところでシチさん、その恰好って。」
 「先週…。」

確か、一緒に出掛けた夏のバーゲンで買ったおりは、
透け感のあるジョーゼット製ではあったが、
3段切り替えの黒っぽいスカートがついてなかったかと。
久蔵がそうと訊きたいらしいのは重々承知の、
こちら草野さんチのお嬢様。
相変わらずに過激な恰好をしてからにと、
お友達が苦笑しちゃうのも判ってはいるが、

 「だって、このくらいは決めないと。」

先程のひなげしさんの真似じゃあなかろが、
いやん、今頃言われてもと、
微妙なシナを作った彼女であり。

 「まさか…今週中にも勘兵衛さんとデートとか?」
 「はいなvv」
 「〜〜〜〜〜〜っ。////////」

久蔵殿が何で照れますかと七郎次がけろんと呆れたのへ、
いや、その心情は判らんでもないような…と平八がフォローを入れて。

 「なんでそういう極端な恰好を。」

 「だって勘兵衛様は、
  日頃からも、
  大胆ないで立ちの少女らが闊歩している街なかを
  行動範囲にしているのですもの。」

 「だから、そのくらいの恰好じゃないと太刀打ち出来ぬとでも?」

ややあきれた平八なのへ、慌てて言い足したのが、

 「それにそれに、
  どんなに足やら首条やら見せても
  知らぬ顔の半兵衛なんですもの。」

効果がないんだからしょうがないでしょうと付け足したところが、

 「〜〜〜。//////」

不意に久蔵がうんうんと大きく頷く。

 「兵庫も。」
 「あ、反応薄いんだ。」

どんな下着を着ていようと、
5回に一度くらい、高校生には派手じゃないのか?って訊くくらい。
やだ、そこまで朴念仁ですかあのお人…と、
話が微妙に膨らんでしまい、
今頃どっかで
つややかな黒髪のお医者様がクシャミしているかも知れません。

  …じゃあなくて。

 「アタシだって判っちゃあいるんですよ。
  こんな見栄えの問題じゃあないってのは。」

どういう服装になったらと見違えてくださるような、
接する態度を変えてくださるような、
そんなまで底の浅い勘兵衛様じゃない。
ただ、

 「いつもいつも微笑ましいなってお顔で見つめられるのが、
  時々焦れったくなるっていうか。」

どう言えばいいのかなと、
腿の半ばまでしか降りてないミニワンピの裾を
いじいじと白い指先で揉みしだき。
ふっと愛しいお人の精悍なお顔でも思い出したか、
ほわんと頬を赤らめながら、

 「時々ね、
  勘兵衛様のお家とかで落ち着いてるときなんかに、
  ああそういえばこんな時、
  昔のアタシだったらサッと立ってって、
  イカのいいのをユズ胡椒や木の芽で和えものとかにして、
  お酒のあてに どうぞって出せたよななんて。」

腰が浮いての立ち上がりかかるほど、
それはリアルに思い起こせる反面、

 「でもでも、実際にキッチンに立ったとして。
  ただのトマトのスライスだって
  1センチ以上はある、
  分厚いのしか切れなかったりするんですものね。」

感触と裏腹、
実際には手が動かない、ついてかないジレンマよ。
大人の気遣いとか、
スマートにこなせたのになぁと思うと、
なんだか口惜しい…と唇を咬む白百合様だったけれど。

 「シチ…。」
 「シチさん、それって…。」
 「ええ、ええ、不毛だってのは判ってます。」

選りにも選って、かつての自分へまで妬いてるんですものねと。
端正なお顔をうつむかせ、はふと切ない吐息つく白皙の美少女であり。

 「勘兵衛様も、そんなアタシを覚えていればこそ、
  まだまだ子供だから手を出すには早いと思うのかなって。」

 「う……。」
 「〜〜〜。」

日頃は あんのおヒゲの朴念仁がと、
無神経男がとあげつらってる相手なはずが。
おおお、それは微妙に的を射ていることなのかもと、
そういう気遣いへは妙に思い当たるところがなくもなく。

 “だって、シチさんのこの愛らしさに
  何にも感じないなんて
  そっちのほうが不自然ですし。”

 “昔のシチ……。///////”
(こらこらこら)

本人からの言だとはいえ、
あとの二人までもがぐうの音も出ない有り様では何ともし難く。


  恋する乙女たちは本当に複雑なんですねと。
  キャラメル色の毛並みをふるふるっと震わせて、
  かつて助けてくれたお姉様たちの沈黙、
  あやや?と見上げるくうちゃんだったのでありました。





   〜Fine〜  11.07.09.


  *勘兵衛様ってば、男冥利に尽きますよね。
   こ〜んなぴっちぴちの、しかも美人から
   一途で可愛らしい想いを寄せられていて。
   ちゃんと感じとって差し上げないと、
   紅眸のセクシーな殺し屋が
   寝首をかきにゆくかも知れません。

   「誰が“セクシー”だって?」
   「榊せんせえ、そこですかツッコミどころは。」

   じゃあなくて。
(笑)

   「そうならないためにも
    島田警部補へ意見してやって下さい。」
   「あの佐伯とかいう頼もしいのがおるだろに。」
   「〜〜〜。(否、否)」
   「なに?
    夏は犯罪の多い季節だから、
    そうそう眸を配ってもおれぬと?」
   「それに、ですね。」
   「おお、佐伯殿。……え? こやつらには聞かせられぬ?」

    酌んでやっては不味い望みってのもあるでしょう。
    ???

   「未成年者への不埒な振る舞いは、
    警察関係者では特に言い訳が利きませんからね。」
   「うう、それは確かに。」

   大人組だって大変なんだよ?
(笑)

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